環境・CSR担当者訪問  

本田技研工業株式会社

Hondaはパーソナルモビリティメーカーとして、早くから環境問題に取り組んできた歴史を持つ。世界ではまだ知名度のなかった日本の自動車メーカーが米国の厳しい排出ガス規制を唯一、クリアしたことは、その後の車の環境性能向上に大きな影響を及ぼした。同社の環境に対する考え方は、創業者である、本田宗一郎氏の基本理念が根底にあるという。その環境への取り組みについて、環境安全企画室室長の篠原道雄さんに話を伺った。

    

取材/松本美菜
写真/川上ふみ子

本田技研工業株式会社 ほんだぎけんこうぎょうかぶしきかいしゃ  URL:http://www.honda.co.jp/
特色 レポート、ウェブサイトを併用し、環境情報を積極的に発信するとともに、ステークホルダーとの環境コミュニケーションを推進している。
所在地 [本社] 東京都港区南青山2-1-1
設立 1948年(昭和23年)9月24日
業種 自動車・自動車部品
資本金 860億6,700万円(2010年3月31日現在)
売上高 連結:8兆5,791億円(2009年度実績)
代表者 取締役社長 伊東孝紳
従業員数 連結:176,815人(2010年3月31日現在)

「製品以外を工場の外に出してはならない」
創業者、本田宗一郎氏の環境理念が受け継がれる会社

― Hondaが考える環境保全活動に対する基本姿勢についてお聞かせください

honda_0040_0820.jpg弊社の考え方は、「作り出した製品が環境に与える影響は製品製造・販売にまつわる影響より遥かに大きい」というものです。その基本となっているのが、創業者である本田宗一郎の理念、「Hondaは車を作らせてもらって世界のお客様に便利を提供するのは良いが、人に迷惑をかけてはいけない」ということです。つまり、健康を害することも、地球環境を破壊することも人や社会に迷惑をかけることになる、というわけです。その理念は、「Hondaの工場からは、水もゴミも全部含め、製品以外を工場の外に出してはならない」ということにつながっています。

そのため、弊社は環境問題への取り組みの歴史は古く、1960年代から始まっています。ちょうど世界中で公害問題が深刻化していた時期で、車の排出ガスにも大気汚染の原因があるのではないかとの見方が出てきました。実際に排出ガスを測定してみますと、そこから健康に影響を及ぼす有害物質が相当量出ていました。

1970年には米国カリフォルニア州で改正された大気清浄法、いわゆるマスキー法により、「車の排出ガスに含まれる窒素酸化物と炭化水素を1975~1976年型以降の車について、1970~1971年型車の10分の1の基準に減らすこと」が定められました。しかし、巨額の投資と高度な技術が必要であったことから、ほとんどの自動車メーカーは、規制に真っ向から反対しました。

弊社はそれを技術的なチャレンジと捉え、低公害エンジンCVCCを開発し、これが世界で初めてマスキー法の基準をクリアし、評価を一気に高めました。それ以来、製品を世の中に出す時には、その環境性能を常に意識するようになりました。そして、1992年に、弊社の環境に対する基本姿勢について、「Honda環境宣言」という形で制定したのです。

―「環境宣言」には、どのようなことが盛り込まれているのですか

「Honda環境宣言」は、長年にわたり取り組んできたことを改めてきちんと明文化したものです。法も整備され、世の中の関心が環境に向くにあたり、社内外に対して、具体的にHondaとして取り組むべき環境活動を発表しようと考えたからです。もちろん、「Honda環境宣言」をもって、弊社の環境活動の元年としているわけではありません。事業活動における環境保全活動や製品の環境性能で実行していたことを、まとめたのです。

その中身は非常にシンプルで、「資源・エネルギーの節約に努める」「商品・事業活動のそれぞれの段階で発生する廃棄物や汚染物質、つまり地球環境に影響を与える物質の最少化と、どうしても出てしまうものに対しては、適切に処理をし、二次的影響が出ないようにする」「地球環境の保全に努力する」、それに、「自らの事業活動および自らの製品が社会に与えているインパクトを認識し、それらに対し、的確な行動を取る」という4つの骨子から構成されています。


環境保全活動に終わりはない
数値目標達成に向け、継続的に取り組む

― 2009年度の国内グループ会社16社全事業所でのCO2排出量は2008年度比で7.9%削減と、大きく低減していますね。一方で同事業所の廃棄物等発生量は2008年度比で1.1%と増加しています

リーマンショック以降、ビジネス環境が大きく変化したことにより、2009年度のCO2排出量は大きく低減しました。私どもは、来るべき年に、どれだけのものを生産し、どれだけのものを販売し、そのことにより、どれだけの収益を得るかということをベースに、ビジネスラインを描いています。それに対して、どれだけ環境負荷を削減するかという目標設定をしますから、経済環境が変わり、生産台数が急激に減少しますと、CO2の総量は、目標値より大幅に減ります。

一方、廃棄物の発生量は、1台当たり何トンという、原単位で目標設定をしていることが影響しています。原単位というのは、車の製造等の生産活動において、必要な原料や労働力といった生産要素の量のことです。分母である生産台数が減少しますと、廃棄物の量も減りますが、台数に比例して廃棄物等の量が減るというわけではありません。たとえば、10万台の車を作る場合の廃棄物の量を5、水の使用量は5とします。しかし、実際には8万台しか作れなかった。では2万台が減ったからといって、材料の分量は単純に2割減るのかというと、そうではないのです。実は、工場操業時の水の使用量というようなものは、車を作っても作らなくても、固定的に水を使用する部分があります。こうしたことが影響して、分母分子の関係がもともとの想定に対してかなりずれてしまい、そのことにより、結果として、目標が達成できなかったという経緯があります。

― 2010年度の活動目標とその進捗についてはいかがでしょうか

弊社は対2000年比で2010年CO2低減目標というものを掲げています。四輪車の場合、製品からのCO2排出の低減目標は全世界平均値でg/km当たり10%、同様に生産時も1台当たりのCO2排出量を全世界平均値で10%低減することを目指します。ただし、数値目標は、二輪車、汎用製品など、製品により異なります。

進捗に関して言えば、製品軸のCO2の低減は、目標以上に進んでいるといえます。ただ、目標設定は原単位で行っていますので、製品を生産する時のCO2の低減目標を実現することはかなり厳しい状況であると言わざるを得ません。しかし、環境の保全活動に終わりがあるわけではありません。引き続き継続します。


次世代のハイブリッドや電気自動車に注力
常に社会や消費者の要請に応えていく

― 次世代に向けての取り組みをお聞きしたいのですが、Hondaは2013年を目処に家庭充電型ハイブリッド車(PHV=Plug in Hybrid Vehicle)を発売するとの報道がありました

環境負荷の削減の中で、CO2に特化して考えますと、これはドラスティックに減らすしか方法はありません。2050年まで、エンジンという内燃機関を搭載している車に乗り続けて削減目標を達成できるかというと、それは絶対に無理なわけです。

2050年には世界中の車の台数が3倍に増えるといわれています。ところが、国際的に、一応合意を持って受入れられているCO2の量は半減させるということです。つまり、今の車が排出しているCO2の量で単純計算すると、6分の1にしなくてはならないということになります。現在、街中を走っている車からは、1km走行するのに大体200gから300gのCO2が排出されています。六分の一というのはこれを50gから60gのレベルに下げなければなりません。これはもっとも燃費のいい50CCのバイクレベルに世界中の車のCO2排出量を抑えなければならないわけです。このことから、世界中の車がエンジンだけを使って走っていたのでは、かなり無理があることがお分かりいただけるでしょう。ですから、相当早いタイミングで、内燃機関で化石燃料を燃やす比率を下げていくためには、動力を電動化するということが一番手っ取り早い手法ということになります。

― 水素燃料電池車の開発からの方向転換ということですか?

水素燃料電池車も水素を使うことで発電し、モーターを回す仕組みですから、電気自動車の1つではあります。しかも、地球上で水素は2番目に多い元素ですし、枯渇することがない。ですから燃料電池車の絶対優位性は間違いないのですが、明日からでもCO2を減らさなければいけないという状況の中では、その普及を待っている時間はないということです。ですから、方向転換をする、ということではなく、当社の持っている資源をすべて製品の環境性能に振り向けるということです。次世代に向けて取り組んでいる環境エネルギーの開発の中で軸足をおいているのは、電動化ということです。それをまず、全方位的に進めなくてはならない時代になったということだといえます。

具体的には、まず、ハイブリッド車を増やすということです。さらに、プラグインハイブリッド車(PHV)と電気自動車(EV)にも力を入れます。PHVはハイブリッド車以上に化石燃料の使用量をリアルワールドで減らすことができるというメリットがあります。一方、EVは、まだ高額で、しかも、1回の充電で100㎞程度しか走行できないという課題がありますから、現状では、使い方を工夫しなくてはなりません。しかし、お客様、社会の要請があるのであれば、当社としても提供していくことになります。


環境保全の本質を見失わない姿勢を貫く
だからこそ、Hondaが行うのは「社会貢献」ではなく、「社会責任」だ

― Hondaはどのような環境マネジメント体制を構築しているのですか?

honda_0004_0820.jpg弊社は国内では1991年12月に「日本環境会議」を設置し、グローバルでは1995年3月に「世界環境会議」を設置しました。日本では、すべての企業活動を行う部署が環境会議にかかわっていますし、世界環境会議には、全地域の全役員が参加し、製品及び企業活動の環境目標の決定と実行展開のレビュー等を行っています。当社は、有害物質の排出量について、まだ国の規制がないといった途上国に対しても先進国と同様の規制水準で四輪車や二輪車を提供していますが、この2つの環境会議は、それぞれの地域の環境保全活動の実行性、先進性を維持することを目的としています。

会議体制によるマネジメント体制を構築していますが、実際に環境対応しているのはそれぞれの現場です。ですから、私が所属している環境安全企画室が、本田技研工業の環境をつかさどるオペレーションの担当という立場ではありますが、実際には現場の者が現場の目線で環境問題に対応しています。しかし、環境専任者が多数いるわけではなく、多くの現場では、併業で環境対応を実行しています。

― 御社は内外を問わず、多様な環境保全活動を行っていらっしゃいますが、HPにも、環境レポートにも、「社会貢献」という言葉が見当たりません。

植林といったことはもちろん社会活動として行っていますが、実は植林活動やカーボンオフセットといったことの脆弱性に対しては、危機感を持っています。といいますのは、私どもの環境保全活動の中で、CO2に対する考え方というのは、実質削減ということだからです。ですから、自らが出したCO2の削減のために植林をするというのは、一見環境保全的な価値があるように見えますが、あまり実質的でないように思えます。

それらの活動について、透明性、公平性、信頼性が満たされたオフセット商品のようなものが果たして存在しているのだろうか、という思いがあります。そういう意味では、排出量取引についても、基本的にはネガティブな考えです。排出量取引の結果は、人為的な証書でしか証明できませんし、実質削減にはつながらない危険性があるからです。

もちろん、弊社は砂漠への植林も地域に根ざした環境保全活動やビーチクリーン活動も行っていますが、それらは社会貢献や、排出しているCO2とのバーターではないということです。Hondaの環境保全活動に対する考え方は、まず、製品を見て、使っていただければ、ご理解いただけるのではないかと思います。


グローバル企業として、環境問題へ対応するには
それぞれのお国事情を勘案しなければならない

― 世界中にある活動拠点の従業員の方に対して、環境に対する意識を徹底させるのは容易なことではありませんね。

苦労は多いです。たとえば本田技研工業が出しているCO2の排出量がどれくらいなのかを調べるためにデータを取ろうとすると、中国やアジアの国々のように、まだCO2に対する関心が一般的でない国々ではどうデータを取れば良いのかが分からない、ということに直面する場合があります。電気代を調べようと思ったら、日本では伝票を見ればいいのですが、海外ではビル1棟貸しで、どれだけ電気やガスを使っても料金は同じ、という地域もありますから、伝票自体が無い、ということになります。時間はかかりますが、地域で全データを取る必要があるということをよく話しをして理解してもらうようにします。

また、米国のある工場で、冬場の温度が異常に高いことが分かり、日本式に「ウォームビズ」を導入しようと、冬場のエアコンの設定温度を1~2度下げたことがありました。ところが、従業員は、「足元が寒い」と言って、皆、ヒートストーブを使いだし、おかげで会社のブレーカーがとんだことがありました。社内の温度一つをとってみても、地域ごとに考え方、捉え方、文化も異なりますので、その違いは違いとして認め、それぞれに対応していかなければなりません。


企業として、やるべきことをやる
「いい加減」ではCO2は減らせない

― 社内で取り組む身近なエコ活動についてお聞かせください。

代表的なところでは、国内において、「Hondaグリーンアクション」に力を入れています。まずは身近なところから一人一人が自覚を持って取り組むということです。たとえば、ノートパソコンの蓋を閉じるとか、トイレの便座の蓋を締めるといったことや、個別に温度管理のできる部屋を利用した後はエアコンを切る、会議室の電気をつけっぱなしにしない、といった草の根的なエコ活動です。こうした取り組みによるアウトプットは、数字の上では非常に少ないのですが、実は上位概念であると考えています。

世界で一番燃費の良い車の開発や環境車を必死で生産している会社の従業員がいい加減で良い筈がありません。私どもが、CO2に関心を持って事業活動に取り組んでいるのであれば、自らの行動の中でそれを示そう、ということです。こうしたアクションは社内だけではなく、販売店等でも実施しています。

― 環境への取り組みについて、今後の展望をお聞かせください。

少なくとも人為的な活動が、地球や環境に対してダメージを与えているということは、まぎれもない事実でしょう。破壊速度を減速させようとすれば、よりメジャラブル(measurable)、カウンタブル(Countable)、つまり、計測できることや数えられる仕組みを用いて、具体的に課題に取り組む必要があります。また、世の中の企業活動における社会的責任や開示要求、公平性や透明性の公表といったことが、より求められるようになるでしょう。企業として、これら社会の要望に応えつつ、かつ、効率よく環境負荷の削減ができるような手法を考えなくてはなりません。世界中のすべての企業がそういう意識を持たないと、CO2は絶対に減らないからです。いい加減さを許している限り、気候変動問題が早期に解決に転じるということは無いと思います。やるべきことは先んじて手を打つべきです。

グローバルにそれぞれの企業が責任をとり、やるべきことができるようになると、必ず先んじた技術に社会は引っ張られます。一時の混乱はあったとしても、長い目で見れば、社会にとり、利益をもたらすのではないでしょうか。たとえば、製品でいえば、明らかにハイブリッド車の方が従来のガソリン車よりもガソリン代も安くなりますから、個人にとり、有益なわけです。ですから、弊社としてはそれをやりたいですし、Hondaとして、パーソナルモビリティという、個人の移動の自由にこだわりつつ、厳しくなる環境に対してもきちっと応えていけるような活動をして行かなければなりません。

― 本日はありがとうございました。

編集後記:

Hondaといえば、二輪車の代名詞でもありますが、今や世界の環境企業として低炭素社会の実現のために、さまざまな取り組みをされています。取材の中では、同社の環境活動について、すべてをお聴きし、ここでご紹介する事は残念ながらできません。皆さんには是非、「Hondaの環境年次レポート2010」を一読していただきたいと思います。話を伺いながら、CO2削減のためには、企業だけでなく、私たち一人一人が日常生活を見直し、「やるべきことをやらなければならない」ことが必要である、ということを改めて実感しました。


篠原 道雄
篠原 道雄:Hondaの環境保全は「社会貢献」ではなく、「社会責任」だ

篠原 道雄(しのはら みちお)

本田技研工業株式会社 環境安全企画室 室長

1982年(株)本田技術研究所入社、四輪車のエンジン開発の基礎研究に従事。過給機付ガソリンエンジン、燃焼解析等を経て、1993年初代ステップワゴンのエンジン基礎研究のテストリーダーとなる。その後、直噴ガソリンエンジン、ディーゼルエンジンの基礎研究等を経て、1998年本田技研工業(株)経営企画部 環境安全企画室に転籍、2008年より現職。

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