環境・CSR担当者訪問  

JAXA 宇宙航空研究開発機構

昨年日本は、ある壮大な科学イベントに沸きたった。小惑星探査機『はやぶさ』の帰還である。打上げから7年間の飛行を経て、文字通り満身創痍で帰ってきた"金属の鳥"を、人々はあたかも命あるもののように迎え、感動した。 『はやぶさ』を生んだのは独立行政法人宇宙航空研究開発機構――通称JAXA(Japan Aerospace eXploration Agency ジャクサ)である。その優れた技術力は『はやぶさ』の帰還で証明されたものの、一方で政府の仕分け対象にもされるなど、一般社会の中でさまざまな評価がなされている。安全・信頼性推進部の和木淳子さんに話をうかがった。

    

取材/松崎辰彦

JAXA 宇宙航空研究開発機構 じゃくさ うちゅうこうくうけんきゅうかいはつきこう  URL:http://www.jaxa.jp/
特色 JAXAは、「空へ挑み、宇宙を拓く」 というコーポレートメッセージのもと、人類の平和と幸福のために役立てるよう、宇宙・航空が持つ大きな可能性を追求し、さまざまな研究開発に取り組んでいる。
所在地 筑波宇宙センター: 茨城県つくば市千現2-1-1
設立 2003年10月1日
業種 独立行政法人
代表者 理事長 立川敬二

人工衛星を通じて環境に貢献する

― JAXAのCSRに関する基本的な理念をお教え下さい

JAXAは独立行政法人です。利益を追求する私企業とは異なり、税金をもとに各種事業を展開しています。それら事業を通して、国民になんらかの利益を還元するべき義務を負っています。JAXAの役割は宇宙航空に関する研究開発ですが、一方で環境にも貢献する使命があります。さらに次世代の子供たちにも私たちがこれまで培った多くの知識を継承する必要があります。
このようにJAXAはその組織の成り立ちからして公益性の高いものであり、宇宙開発といっても一般社会との密接なつながりの中で事業を展開していることを意識して、活動の理念としております。


― JAXAは人工衛星を通じての環境貢献が大きいと聞いています

JAXAが開発する人工衛星には、国民のために役立つことが前提の実利用ミッションと、人類のフロンティアを広げる宇宙科学研究のミッションの2種類あります。前者の代表的な人工衛星の1つに、2009年に打ち上げた温室効果ガス観測技術衛星『いぶき』があります。『いぶき』は各種センサーを搭載し、全球の二酸化炭素(CO2)やメタンガスといった温室効果ガスの濃度を測定しています。現在、世界の研究組織と協力して、世界のCO2やメタンガスの濃度分布図の作成を進めています。

具体的には昨年、80カ国以上が参加している地球観測政府間作業部会(GEO:Group of Earth Observations)が開催されました。『いぶき』はGEOの炭素プロジェクトに温室効果ガスのデータを提供し、全球の炭素循環の実態把握に貢献しています。もう一つ、2006年に打ち上げられた陸域観測技術衛星『だいち』は上空から地上を観測し、正確な地形データを取得します。森林や河川の状況を把握して、火事や洪水の状況なども調査し、ハザードマップ(災害予測図)を作成するのに役立てます。長期的な観測をすれば、森林が減っていることや、南極の氷が溶けていることなどが観測できて、環境問題に重要なデータを蓄積することができます。

環境保護に関係が深い人工衛星として代表的なのはこの二つですが、さらに2010年9月11日に準天頂衛星『みちびき』が打ち上げられました。これは高精度の測位サービスを可能にするもので、実用化されれば山間部や都市部など地形や地理条件に影響されずに、正確な位置把握ができるようになります。自動車がむやみに道に迷ったりしなくなり、結果としてCO2削減に貢献することになります。


開発に伴う環境負荷

― 宇宙開発事業が環境に負荷をかけることはないのでしょうか

もちろん、宇宙開発が環境に負荷をかけていることもあります。例えばロケットの推進剤が燃焼すれば、莫大なCO2を出します。
CO2排出量を削減するには機体を軽くする必要があります。ただし、打上げの衝撃に耐える強度も持ち合わせなければなりません。宇宙機の製作はミッション達成が前提条件ですので、汎用品に多いエコ素材とは要求する品質が違うのです。

非常に難しいのは、宇宙開発の部品は職人が手作りする一点ものが多く、汎用品が少ないことです。予算も限られていますので、全体的に見たプラスマイナスで、果たして環境にとってどうなのか、バランスで考えるしかありません。現在は信頼性重視で、ロケットなどは重く、頑丈なものになっています。一方で、CO2排出を削減し、騒音を低減する航空機エンジンの研究開発をしたり、スーパーコンピューターや試験設備も、できるだけ消費電力を少なくするよう改善努力をしており、できる所から環境に配慮しています。


― JAXAは「チャレンジ25」にも参加していますね

温室効果ガス排出量を、2020年までに1990年比で25%削減するという「チャレンジ25」運動にJAXAも参加しています。毎年目標を決めてCO2削減を計画的に実施しています。国内の法令や内外の規程に従った環境配慮活動は、経営層で組織する「環境経営推進会議」という場を設定し、目標の達成状況を監視しています。 しかし新しいプロジェクトを始めたり、施設を作ったりすると、当然CO2の排出量が増加することもありますが、これをできるだけ抑え、他の部分でCO2削減努力を更に進める必要が生じてきます。目標の見直しをしたり、対策検討をその都度行い、温室効果ガス削減を推進しています。


優れた技術が民間に転用される

― 宇宙事業の過程で開発された民間に転用できる技術は少なくないと思われます。環境に役立つものとして、どのようなものがあるでしょうか

e_0208_001_s.jpg宇宙開発の過程で創案された技術で、民間に役立つようなものは数多くあり、特許を取ったものもあります。 環境に役立つものとして代表的な技術は、有機廃棄物再資源化装置・水再生装置です。

国際宇宙ステーション(ISS)での長期滞在には大量の水や食料が必要です。しかし、これらを運ぶには多額の費用がかかりますから、内部で物質循環させる必要があります。これは、一度廃棄したり、排出された食品や水をきれいにして再利用する技術なのですが、もとはアメリカで開発された技術で、現在ISSには米露の装置が搭載されています。ただ、よく故障したり、水がおいしくないというので、日本でも研究開発を続けており、今年度中に評価試験が終了する予定です。これがもし成功して商品化すれば、宇宙のみならず、開発途上国など下水道がない地域でも、清潔な水を確保することができるようになります。

この他に代表的なものは、JAXAが開発したロケットフェアリングの断熱材技術が住宅の断熱材として使用されている例があり、地球温暖化防止に大きく貢献する新材料となる可能性があります。今後もこのように宇宙開発の技術が民間に転用できるよう促進したいと考えています。





― 子供たちへの教育事業にも、JAXAは力を入れていますね

JAXAには宇宙教育センターがあり、中学生以下の子供たちを対象に体験型の宇宙教育プログラム「コズミックカレッジ」を開催しています。工作や実験を通して、ロケットが飛ぶ仕組みや宇宙の不思議について学んでいきます。好奇心、冒険心を刺激しながら子供たちに感動を与えるこの教室は大変好評を得ています。また宇宙教育の指導者を養成することを目的とした研修を行い、希望者に基本的なスキルを身につけていただく活動もしています。さらに小中高校の先生たちと一緒に学習プログラムや教材を作ったり、専門家を派遣したりと宇宙に関する魅力ある授業作りに貢献しています。

宇宙の起源を知ることは人類の未来を知ること

― 実益があるものならばわかりやすいのですが、なかには「宇宙開発なんてなんの意味があるの?」「宇宙の微粒子を持ち帰っていくら儲かるの?」という人もいるかと思います。こうした宇宙開発の本質的な意味とはなんでしょう

たしかに宇宙開発に関して「夢があっていいですね」といって下さる方が多いのですが、なかには「こんなにお金を無駄遣いしていいの?」という方もいます。しかし、宇宙の起源を知ることは、私たちの未来を知ることでもあるのです。「いま役に立たなければやる必要はない」という人もいますが、人類の全体像を把握しなければ、未来のために現在なにをやるべきなのか、それすらわからないはずなのです。宇宙開発は、未来の子供達のために必要なことであり、先進国の義務だと思っています。

― 政治家のなかには日本の科学技術に関して「なぜ一番にならなければいけないのか。二番でもいいではないか」という人がいます。日本人が宇宙開発の分野で独自の技術を開発する意義とは何でしょう

二番目を目指して最高のものを作ろうとしている技術者、研究者はいません。日本は技術立国といわれているだけあって、日本人ならではの知性を持っているのではないかと思います。手先の器用さなどにも関係して、優秀な技術を持っていると思います。アメリカほど大きくもなく、お金持ちでなくても、日本独自でできることがあると思います。

たとえばJAXAは2兆円近いNASA(アメリカ航空宇宙局)の予算の、およそ10分の1の予算しか与えられていません。のみならずNASAの人員が1万8000人近いのに、JAXAは約1600人の人員でやりくりしていますが、こうした厳しい条件の中でも国産のロケットや地球観測衛星を打ち上げるなど、着実に実績を挙げていると思います。 JAXAでは限られた予算を適切に使い実績を挙げる、できるだけたくさんの成果を得るということを心がけています。たとえ失敗しても、それを次につなげること、最低限の成果を得なければなりません。そういった姿勢もご理解願えるよう説明責任を果たしていかなくてはいけないと思います。
大きな夢に、費用を投じる開拓精神のあふれるアメリカ人の国民性とは基本的に違うかもしれません。

 

『はやぶさ』は宇宙への関心を喚起した

― JAXAの知名度を広めたのは昨年の『はやぶさ』の帰還成功のドラマでした。遠隔操作で帰ってきた小惑星探査機『はやぶさ』に多くの人が感動しました

e_0208_002_s.jpg当初『はやぶさ』の成功がこのように反響が大きかったことには驚きました。JAXAの知名度ももちろん高めましたが、一般の方々の宇宙への関心や夢も喚起したと思います。世界で初めて小惑星の物質を遠隔操作で持って帰ってくるという技術と、失敗してもあきらめずに努力し続けた研究者の努力がドラマチックで多くの方が感動してくださったのだと思います。

『はやぶさ』の成功は、宇宙開発が多くの人に夢を与えるということ、それが私たちの使命のひとつであることを再認識させてくれました。そして、私たちの仕事はこれほど素晴らしいことだという自信を与えてくれたことを喜びたいと思います。









― 一方でJAXAは昨年、政府の仕分けの対象になり、丸の内にあったJAXAの広報施設である「情報センターJAXAi」が閉鎖されてしまいました。こうした情勢の中で、国民の理解を得る努力が重要と思われます

一般の方との接点が少なくなってしまうのは私としても残念だと思います。 こうしたなかで国民の方々のご理解を得るのも、私たちの仕事です。『はやぶさ』の成功で、多くの方が私たちの仕事に目を向けて下さいました。JAXAの施設の公開日には、1万人以上の人々が見学にくるようになり、私たちも驚いています。

JAXAの技術は、あくまで平和利用です。自分たちが培った技術を絶対に戦争に関わる用途には使いたくないし、使ってはならないと肝に銘じています。今後、さらに私たちは研究開発を進め、宇宙を探求し、一方で開発した技術を社会生活に還元したいと考えています。


― ありがとうございました

編集後記

広大な敷地に横たわる巨大なロケット。インタビューで訪れた「JAXA筑波宇宙センター」には宇宙に飛び出す見えない滑走路が伸びているようでした。少年少女時代、誰もが夢見た宇宙旅行。その夢の実現に本気になって取り組んでいるのがJAXAです。昨年の『はやぶさ』の帰還は多くの人に感動を与えましたが、その裏には多くの研究者や技術者の苦闘がありました。「『はやぶさ』を作った『JAXA宇宙科学研究所』の人はよく自分たちだけで盛り上がるんですよ。今回の国民的な熱狂は、彼らの感激が全国に拡大したもののような気がします」和木さんはいいます。そういう和木さんは"おもしろいことがやりたくて"入社したのだとか。宇宙と向き合うとき、誰もが少年少女になるようです。


JAXA公開HP http://www.jaxa.jp/

社会環境報告書2010 http://www.jaxa.jp/about/iso/report/2010/index_j.html

(用語の説明)
・温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」 2009年1月23日打上げ。温室効果ガス観測の濃度分布図を高精度・高頻度で観測し地球温暖化問題に貢献する地球観測衛星。

・陸域観測技術衛星「だいち」
2006年1月24日打上げ。地図作成、地域観測、資源探査などを目的とした地球観測衛星。

・準天頂衛星「みちびき」初号機
2010年9月11日打上げ。高精度の測位サービス(GPS)の提供を目指す技術実証衛星。

・GEO
GEO(Group on Earth Observations)は、2005年2月に行われた「第3回地球観測サミット」で承認された「複数システムからなる全球地球観測システム (GEOSS: Global Earth Observation System of Systems)」を構築するための、政府間の組織。GEOには2010年11月時点で85ヵ国と欧州委員会(EC)、世界気象機関(WMO)など 61の国際機関が参加しています。

・小惑星探査機「はやぶさ」 (CG:池下章裕)
小惑星から物質を地球に持ち帰ることを目的とした探査機。世界で初めて小惑星の物質を持ち帰った。持ち帰った物質を現在解析中。

・国際宇宙ステーション(ISS)(写真提供:NASA)
世界15ヶ国が参加し、地上約400km上空に建設された有人実験設備。日本は日本実験棟(きぼう)や宇宙ステーション補給機(こうのとり)を提供している。常時宇宙飛行士が長期滞在し、宇宙空間での実験、研究、観測を行っている。


和木 淳子
和木 淳子:一般社会とのつながりの中で宇宙開発を推進します

和木 淳子(わき じゅんこ)

JAXA 宇宙航空研究開発機構 安全・信頼性推進部

大学卒業後、宇宙開発事業団に入社。人事、広報、企画など管理部門を中心に経験した後、宇宙輸送システム本部でロケット打上げの情報連絡などを担当。その後、海洋研究開発機構に出向、人事部を経て現職。現在、環境経営、社会環境報告書の編集を担当している。

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