世界の環境政策を取材  

駐日欧州連合代表部

 

「20-20-20」戦略で温室効果ガスの排出量の20%削減を目標に

1992年に調印されたマーストリヒト条約により、特定分野で政府間協力を図りつつ経済通貨同盟を目指す欧州連合(以下、EU)が誕生した(駐日欧州連合代表部ホームページより)。以降、その加盟国は増え続け、2010年5月1日現在、27カ国に上る。世界の経済圏として多大な影響力を持つEUは、気候変動対策においても世界をリードしている。どのような政策を持ち、どのような効果があるのか、駐日欧州連合代表部のヘイス・ベレンツさんに話を伺った。

取材/松本美菜
写真/川上ふみ子

駐日欧州連合代表部の役割は
EUの政治経済活動と日本をつなぐこと

―まず、駐日欧州連合代表部の活動内容をお聞かせください。
e_eu_in0713_0014_s.jpg私たちの活動は大きく3つに分類されます。1つ目は、日本の関係省庁や国会議員等の政策立案者に対しEUの政策や、政策を立案した理由やその効果などについて説明するということです。もちろん、日本のNGOや学校、また、一般市民に対しても、EUの活動について啓発・普及する役目を担っています。

2つ目は、日本の政策を理解するということです。駐日代表部は東京がベースで、日本の意思決定の中枢に近いことから、日本についての情報収集を効率的に行うことができます。新しい政策動向をいち早くキャッチしなくてはなりませんし、国際交渉の場において、日本の立場に変更があれば、それについても対応しなくてはなりません。私たちはEU全体として、日本の政策やその傾向を理解するための軸となっているわけです。

3つ目は、日本のそれぞれの政策分野におけるキープレ-ヤーの把握です。具体的には、政治家や産業界、また、NGO、ジャーナリスト、あるいは、学術分野における専門家等です。EUからは実務レベルの関係者から閣僚級に至るまで、さまざまな関係者が来日します。その時に、それぞれの政策分野において、ベストな相手、興味深い相手、誰と引き合わせればいいのかということを常に把握し、ネットワークを張り巡らせておく必要があるからです。



気候変動対策には
途上国への早急な資金援助が欠かせない

―EUの気候変動対策に関連した予算の概要と主な投資内容について教えてください。

EUは27の加盟国から成る集合体です。欧州委員会が法案を作り、EU全体の法律はできますが、それらの施行は、各加盟国が行いますから、そのための予算はそれぞれの国が持っています。ですから、それらを積み上げていけば、EUとしては、かなり大きな予算になります。気候変動対策に関連した投資の中では、低炭素技術全般、再生可能エネルギー、革新的な技術のための研究開発、そして環境保全型の住宅建設といった分野への拠出が突出していると申し上げられると思います。

また、EUは環境分野における途上国への資金援助も行っています。これには、途上国自らが排出量を削減するために必要な資金、そして、気候変動により起こる環境変化への適応コストが含まれます。昨年12月にコペンハーゲンで行われた「国連気候変動枠組み条約第15回締約会議」、いわゆるCOP15で途上国に対する早期の資金援助に関する合意を受け、EUでは2010年から2012年まで毎年24億ユーロを充当していきます。

COP15の結果については、批判もされました。けれども、EUは、途上国への資金援助の他、世界の気温の上昇を産業革命以前のレベルに比べ2℃以下にとどめることの国際的な認識、各国の国別の削減目標のリスト化について国際的な合意形成がなされたことについて、その価値を認めています。 しかし、科学が私たちにつきつけている「2℃以下に上昇を抑える」という目標に対しては、現在各国が出している公約や目標では不十分であるという認識を持っています。私たちは、最大で2℃という上昇制限を達成するための法的拘束力のある包括的合意が必要と考えているのです。


排出権取引には
経済効果も期待される

―現在発令されているEUの主な環境政策にはどのようなものがありますか?

e_eu_in0713_0015_s.jpgEUは、域内で温室効果ガスの排出量を削減することを目標に掲げ、「20-20-20」という、2020年までに達成すべき3つの「20」をキーワードとした環境政策を掲げています。まず1つ目は、温室効果ガスの排出量を1990年比で20%削減すること。2つ目は、全体で使うエネルギーの中で再生可能エネルギーを使う割合を20%に高めること。そして、3つ目は、エネルギー効率を高め、エネルギー消費を20%削減するというものです。 その中で、中心となる施策が2005年から導入しているEU ETS(EU Emission Trading System)という、キャップ・アンド・トレード方式の排出権取引制度です。対象となるのは、多くの温室効果ガスを排出する紙・パルプ、電力、鉄鋼、ガラス等の産業分野で、それらのセクターに対して、排出の上限、つまりキャップをかけることを目的としています。自らコストを払い、排出量を減らすことに積極的でない企業がある一方で、削減効果の高い企業があります。自社の排出枠よりも少ない量で排出することができた企業は、余剰分を他社に売ることができるわけです。排出量が一定以上増加する企業は、他社から余った排出枠を購入し、自社で使うことができます。


―2013年からEU ETSが強化・拡充されるそうですが、どう変わるのでしょうか。

現状のものと強化・拡充される制度の違いは主に2つあります。1つは、キャップです。今は27の加盟国それぞれが設定していますが、これを将来はEUとして1本化します。もちろん、そのためには加盟国の協力が不可欠です。

もう1つはキャップの決め方です。2013年の段階で、どれ位の上限にするのかということを決める際にベースとなるのは、温室効果ガスの20%削減を目標にするために算出した数値です。2013年から2020年まで7年間ありますから、7で割り、毎年より厳しいキャップを決めます。 もちろん、課題もあります。現在排出枠は無償ですが、徐々に公開入札方式を通じて、排出枠を購入しなくてはならなくなります。加盟国政府にとっては、新たな収益源になりますが、企業にとってはコスト増となります。ですから、それを避けるために、環境規制の緩やかなEU域外に生産拠点を移転させる企業が出てくる可能性があります。それを回避するために、国際的な競争・圧力にさらされているセクターの企業に対しては、最新技術を導入することを条件に、排出権を無償で得ることができるような制度を設けています。

大切なのは、企業がよりエネルギー効率を高めることのできるような活動を支援することです。ETSにはEU域内の温室効果ガス排出量の削減効果がありますが、それを低減化するための技術開発を積極的に進めることによって雇用も拡大し、経済成長も押し上げるという効果を見込んでいます。

―EUの化石燃料などのエネルギー輸入の現状とその依存を軽減する取り組みについて教えてください。

エネルギー依存の割合について、依存率100%から0%と、EU加盟27カ国の中で、大きなばらつきがあります。しかし、EU全体でいえば、依存率の平均は53%~54%となっています。環境政策「20-20-20」の3つの目標が達成できたとしても、私たちは、エネルギー依存率は現状にとどまるのではないかと予測しています。域内には天然ガスや石油等、自前の資源がありますが、それらが同時に枯渇してくるという問題があるからです。 そこで、EUとして取り組まなければならないことがあります。まず、それぞれの目標を達成した後も、この政策努力を続けるということ。次に、エネルギーの運搬や安定供給のために、供給ルートの多様化や輸送網等のインフラを整備することです。さらに、エネルギー対策をEUの対外政策の一環としてしっかりと位置付けるということです。



EUと日本の関係は
政治レベルから一般市民レベルまで

―EUと日本の気候変動の協力関係の現状について教えてください。

ここ数ヶ月来、気候変動に関するEUと日本の政策が収斂してきていると感じています。その背景には、日本政府が、排出権取引であれ炭素税であれ、何らかの形で二酸化炭素の排出に価格をつけようという方向性を打ち出してきていることが挙げられます。気候変動対策について、日本との共通項が生まれれば、何らかの形での合意形成がしやすくなります。

EUと日本は毎年、日・EU環境高級事務レベル会合を実施しています。そこでは、環境に関するありとあらゆるアジェンダが扱われています。このような、政治的な対話が制度化され、継続的に話し合いが行われるということが重要だと考えています。また、ワークショップという形での政策研究も行われ、双方の専門家が気候変動の分野において、定期的に協議をするという枠組みもあります。


―最後に、市民への啓発活動について教えてください。

欧州委員会として市民レベルの動きを促進するためのさまざまな取り組みをしています。中でもウェブ(http://ec.europa.eu/climateaction/your_action/index_en.htm)やビデオという形での情報の提供は大変重要であると考えています。また、日本で行うプロジェクトとして、2007年より「EUがあなたの学校にやって来る」という出張授業をしています。これは、代表部と加盟国の大使館に勤める外交官が全国100を超える高等学校に行き、5万人の高校生を相手にレクチャーをするというプロジェクトで、2010年は5月11日、12日に行われました。そこではEU全体についての説明もしますが、大きな柱として気候変動についての話もします。これらの活動を通し、EUの取り組みを市民の方にも理解していただけるよう、努めています。


―本日はありがとうございました。

編集後記:


普段全く接する機会のない駐日欧州連合代表部は、閉じられた世界だというイメージがありましたが、ベレンツさんをはじめ、皆さんとても気さくで、和やかな雰囲気の内に取材を終えることができました。もともとEUの環境問題への取り組みは、世界に先行している感がありましたが、今回の取材で、環境政策の目標達成に向けた皆さんの真摯な気持ちをお聞きし、その想いを一層強くしました。それにしても、高校への「出張授業」があるとは。羨ましい!さすがに私が今から高校時代に戻るのは、ムリ、ですよね・・・。


担当者様プロフィール
ヘイス・ベレンツ氏:「20-20-20」戦略で温室効果ガスの排出量の20%削減を目標に

ヘイス・ベレンツ氏

駐日欧州連合代表部
通商部 一等書記官

英国ケンブリッジ大学クイーンズカレッジ欧州政治学修士課程修了。2001年より欧州委員会保健・消費者保護総局、デビッド・バーン委員顧問メンバー、通商総局イスラエル・ヨルダン・パレスチナ自治区担当を経て、2006年より現職(2007年にはEUビジネスマン日本研修プログラムに参加)、気候変動、生物多様性や環境に関する問題全般を担当している。

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